今回はつつじが咲き誇る快晴の日に
松本からはるばるいらした保田紀子さんが
演奏してくださった。
それなのにそれなのに、当日朝のリハーサルの時、
わたしとアシスタントの打ち合わせをしつつ
プログラムの最後の曲を弾いている最中に、
突然オルガンの機嫌が悪くなった。
手鍵盤の1段目全部と、ペダルの半分だけ音が鳴らなくなったのだ。
ペダルのためのパイプは左右に分かれて立つケースに、
ド(左側)・ド♯(右側)・レ(左側)・レ♯(右側)・ミ(左側)・・・・
というふうに交互に配置されている。
今回鳴らなくなったのは、
向かって左側のケースにおさめられているCサイド(ド・レ・ミ・・・の側)のパイプ。
同様にまったく音が出ない手鍵盤の1段目のためのパイプも、
鳴らないペダルのパイプと同じ左側のケースに入っている。
ということは、左側のパイプケース全体の電気系統に何かトラブルが起こったようだ。
すがるような気持ちで技術者の方に電話したが、
当然ながら本番までに間に合う場所にはいらっしゃらなかった。
なにしろ時間がなさ過ぎる。
電話であれこれ質問してみたが、
故障したところがその場で我々が応急処置出来る箇所ではなさそうだ。
そうしている間に、もう11時45分。
お客様がそろそろ入り出している。
保田さんがあらかじめ考えて下さったプログラムは
両鍵盤、ペダルをフルに使用する曲ばかりで
今のままでは演奏不可能。
2日前から東京にいらしてリハーサルをして音色を決めて下さったのに。
さて、どうしよう...
くらくらしてきたぞ。
我々がバタバタとあれこれ手配している間に、
なんと保田さんはたまたま鞄に入っていたという、
現在弾ける状態にある一つの手鍵盤だけで演奏できる、
モーツァルトのアンダンテを練習して下さっていた。
プログラムの中にも、わたしがペダル部分を弾けば
いけそうな曲が1曲あった。
私も鞄の中をごそごそ。
なんとか弾けそうな曲が3つ。
もう腹を決めるしかない。
これまた偶然にもたまたま時間より早く見えていた
正オルガニストの伊藤先生にすかさず
最初にご挨拶していただくようにお願いした。
私は音色だけ決めたところで、もう開始直前。
伊藤先生のお話
お詫びのご挨拶のあとで、
「よくありますよね。年末になると突然壊れる冷蔵庫とかテレビ。
オルガンのなかにもそういったものと同じように、電気が使われている部分があって、
今日は直前に機嫌が悪くなってしまったというわけです。」
上手ににこやかにお話して下さっているのを聞いて私も落ち着いてきた。
その次に保田さんの前座として、まずはわたしがお話を交えながら3曲。
前に出てから、はたと気がついた。
あのう、わたしおもいっきり普段着です。
そしてオルガンシューズを持っていなかったので、
裸足なんですけど。(福井さん激写)
曲間に裸足のまま演奏台から出て行って、お話までしてしまった。
テンパっている状態の時に限って心の中のある部分だけが妙に冷静で、
自分に突っ込みを入れている。
「自宅じゃないんだから。」
その上うっかり「すみません、今日は裸足でひいております。
靴下に穴があいていなくて良かったです。」なんて口走ってしまった。
こういうときに澄ました顔でいられない、小心者です。
しかも終わったあとで再びはたと気がついた。
「ペダルが使えないんだから、普通の靴でいいじゃん。」
3曲目にはいよいよ保田さん登場。
ペダルの部分を一緒に弾いて下さった。
一緒に息を合わせて。
その後急遽弾いて下さることになった
モーツァルトのアンダンテと
リストのコンソラシオンを
お話を交えて
この厳しい状況のなか、こんなに素敵な笑顔で。
故障中のオルガンをいたわるような、
お人柄通りの温かい温かい音色。
ありがたさのあまり、泣きそう。
奇しくも最後に演奏されたコンソラシオンは「慰め」という意味。
お客様もじっと耳を傾けて下さっている。
終演後何人かの方が話しかけて下さった。
「大変でしたね。」
「がんばってね。」なんていう声も。
またまた泣きそう。
「私今日初めて山形から来たのよ。
全部の音が聴けなくて残念だったわ〜。
また来月来るからね。」
ごめんなさい。
ぜひまたいらして下さいね。
わあ、大きいなあオルガンって。
このかわいらしいひとは、4月から新しく築地本願寺にやってきた
大内志乃さん。
福井さんの写真はまなざしが優しいなあ。
この日の午後、技術者の方が飛んで来て下さって
現在オルガンは正常な状態に戻っている。
1970年に作られたこの楽器は、
そろそろくたびれてきた部分が出て来ているのが正直なところ。
もっとしっかり楽器の面倒をみて、
ご機嫌を伺って愛情をかけてあげることも
オルガニストの大切な仕事と反省しきりです。
いらして下さった皆様申し訳ありませんでした。
それにしてもこういうときにこそその人の本質がでるなあ、と思った。
精神的にかなりきつい状況だったにも関わらず、
オルガンが壊れたその時からずっと、
終始落ち着いていらしてにこにこ穏やかに、
現状で出来うる最大限のことを当たり前のようにやって下さった保田さん、
本当にありがとうございました。
私も見習わなくっちゃ。
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