失せ物

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 20年ぐらい前でしょうか、ある方から小さな櫛を戴きました。
金属性で折り畳み式。柄に相当する部分がケースになってい
て、そこにフックが着いています。だから丁度、万年筆と同様、
背広の内ポケットなどに挿せます。私にとっては、この上無く
便利だったので、以来、外出の際には、ペンやシャープなど
と一緒に、離したことがありませんでした。

 ところが、ここ2~3週間、それが何処へ行ったのか見当たり
ません。着がえた洋服のポケットに挿してあるのかもしれない
と、数着しらべてみましたが、無い。もしかしたら、どこかで落と
したのかも知れません。

 以来、別の小さな櫛を持ち歩いているのですが、まことに、
物が無くなる時は、それが何十年愛用した物であっても一瞬
の、しかも思いがけないことである場合が少なくありません。
そして、それが再び返ってくることは、まず、ほとんど無いの
です。

 何十年も愛しつづけた我が身の生命も、ひとの生命も、
突然尽きることも多いのだと、櫛を通して、あらためて思い
知らされている昨今であります。

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