ところが上の三書に比べて、ある点では、さらに
すぐれた旅行記があります。それが我が国、
比叡山・天台宗の開祖・伝教大師最澄の弟子、
慈覚大師円仁(794~864)の『入唐求法巡礼行
記録』(4巻)です。
円仁は45歳のとき、遣唐使の一行とともに唐に
わたり、折しも武宗治下(841~847)の廃仏毀釈
の嵐の中、筆舌に尽くしがたい艱難辛苦の末、
54歳で帰国します。『巡礼行記』はその十年間の
見聞録ですが、この書が『東方見聞録』など他の
三書と最も異なる点は、三書が旅の記憶をメモなど
をもとにしてまとめたものであるのに対し、まさしく、
円仁自身の旅行日記ともいうべきものだからです。
だから、その体験の困難、見聞した風俗、文化・
政治経済情勢の描写をはじめ、中国の官憲と往復
した多数の文書もそのまま記録されるなど、
叙述は終始、まさに臨場感に溢れ、その内容は
他の三書のいずれと比べても精緻を極めています。
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