N子は、芳紀今や30才? とても純粋な心の持主です。
何年か前「お客さんです」との声で玄関に出てみると、何と頭をくりくりに剃った法衣姿の女の子が立っています。N子でした。
「どうしたの?」とたずねると、「お坊さんをやめようかと思う」と。「何故?」ときくと、「教修所の先生の言っていることと、していることが違うから」と。確か、「お経本はその都度頂くなど丁寧に扱いなさい」と教えておきながら、講義が済んで控室に帰った途端に、「やれやれ」と思って、懐中にしていた経本を、ぽんと机の上に置くのを、彼女が見ていて、腹を立てたのだったと思います。彼女は、それを言うために、法衣姿のまま、京都の教修所を飛び出し、一時間余りもかけて、私の寺まで来たのでした。
「そんなことをしてはいけない。」「あなたのような若い、可愛い坊さん姿で、檀家のおばあさんたちのお家にお参りしたら、あばあさんたち、どんなに喜ぶことか。そうやって門徒の皆さんに喜んでもらうのが、あなたの任務なのですよ。」
私は繰り返し繰り返し、話しました。
彼女はどうやら、解ってくれたようでした。
ところが、その後、しばらくして、南米のボリビヤとかへ行ってしまったのです。海外協力の団体に属し、日本の家庭の(台所の)簡単な技術を現地の人々に伝えるためだったのです。
周囲に全く日本人の居ない所で、彼女は2年間、頑張り、やがて帰国しました。
現在は、生まれたお寺に住み、バイトをしながら、折々に築地本願寺へもお参りに来ます。相変わらず元気で活発、まるで男の子のようです。
そんな彼女に、ちょっといい事があるらしいので、極くささやかな贈り物をしました。
しばらくして、大きな封筒が届きました。念のため測ってみると縦35.5センチ、横巾17.5センチ、勿論、既製品ではなく、どうやらドーサ(礬砂)引きのやや堅目の画仙紙でのお手製のようです。表書きも裏も、筆ペン書きらしく、〒マークは、縦画の左右に目、下はロにルージュが塗ってあります。裏の発信者住所の〒マークを中心に画かれた顔は、ほっぺたが赤丸でした
さて中味ですが、やはり同じ画仙紙に本文はライトブルーの筆ペン書き、紙幅は102センチで、先日のプレゼントに対する礼状。約30行でした。
紙幅の下縁近くに黒い水鳥が大小6羽。黄色い目、黄色い脚。黄色い嘴には、花喰いのようにピンク色のハートを咥えています。
それにしても私自身、これまでのあちこちから何百通、何千通のお手紙を戴いたかわかりません。年賀状も毎年千数百通ですが、N子の今回のような来信は初めてです。
恐らくは彼女の創意なのでしょう。手紙の書き方の規則や法則も大切ですが、こんな型破り(?)も面白い。いや、型破りを作れるその才能が、また素晴らしいと思いました。
但し型破りとは言っても、それは封筒や便箋や、インクの色や挿絵のことであって、文章そのものは、きちんと、手紙文の法則に合ったものでした。
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